富裕層に許される節税目的の不動産投資【節税対策】
不動産投資を検討するうえで、まず一番に考えたいのは物件の収益性(価格と収益のバランス)と競争力です。
近年では、不動産会社の営業担当者などから、金利が低いうちがチャンスです!
といったセールストークでよくPRされますが、こうした営業は不動産投資の一部の側面を捉えたものでしかありません。
物件価格が高騰していて高値掴みになるリスクが高いということは、しっかりと認識する必要があります。
スタートの段階で金利が低くとも、金利があがった際に繰り上げ返済できる自己資金が備わっているのか?
といった点を検討せずに投資してしまうと、将来的に当初想定していたキャッシュフローが獲得できずに、痛い目をみることになりかねないからです。
私も最近は不動産会社の担当と面談をしておりますが、やはり物件価格の高騰により手がだせないものが非常に多いのが実情です。
この記事では、所得税率が高い富裕層を対象として、マーケット環境(金利の上昇や物件価格の変動)とは切り離して、節税目的に特化した不動産投資を検討してみたいと思います。
1.課税所得と税率の関係
まず始めに、課税所得と所得税率の関係を確認しておきたいと思います。
なお、以下ではサラリーマンの場合を想定しています。
【課税所得】=【年収】ー【給与所得控除】ー【所得控除】
以下のとおり、「課税される所得金額」=「課税所得」に基づいて所得税率は決定されており、「年収」毎の税率を示していない点にご注意ください。
【税額計算表】
具体的に年収がどの程度の場合に課税所得がどの程度のゾーンに入るのかを確認するため、年収600万円、700万円、800万円のケースで課税所得を計算していきます。(所得控除は色んな種類がありますが、ここでは「社会保険料控除」と「基礎控除」のみ考慮します。)
◆【ケース1】年収が600万円の場合の「課税所得」
①まず年収から給与所得控除を引きます。
年収ー給与所得控除
=600万円ー(年収の20%+54万円)
=426万円
②次に、上記①から所得控除を引きます。
=426万円ー(84万円+38万円)
=304万円【←課税所得】
つまり、年収600万円の場合は、所得税率は10%となるのです。
ちなみに実際の税額は、
304万円×10%-9.75万円=約20万円
となりますので、住民税(課税所得×10%)※と併せると約50万円の税金を納めることとなります。※住民税は税額控除部分(9.75万円)がない
◆【ケース2】年収が700万円の場合の「課税所得」
①まず年収から給与所得控除を引きます。
年収ー給与所得控除
=700万円ー(年収の10%+120万円)
=510万円
②次に、上記①から所得控除を引きます。
=510万円ー(約100万円+38万円)
=372万円【←課税所得】
つまり、年収700万円の場合は、所得税率は20%となるのです。
ちなみに実際の税額は、
372万円×20%-42.75万円=約32万円
となりますので、住民税(約10%)と併せると約70万円の税金を納めることとなります。
◆【ケース3】年収が800万円の場合の「課税所得」
①まず年収から給与所得控除を引きます。
年収ー給与所得控除
=800万円ー(年収の10%+120万円)
=600万円
②次に、上記①から所得控除を引きます。
=600万円ー(約110万円+38万円)
=452万円【←課税所得】
つまり、年収800万円の場合も、所得税率は20%となります。
ちなみに実際の税額は、
452万円×20%-42.75万円=約48万円
となりますので、住民税(約10%)と併せると約93万円の税金を納めることとなります。
上記と同様に、年収が
①1000万円
②1200万円
③3000万円
④3200万円
の課税所得、税金は概算で以下のとおりです。
①課税所得:620万円、所得・住民税:145万円
②課税所得:800万円、所得・住民税:200万円
③課税所得:2580万円、所得・住民税:956万円
④課税所得:2780万円、所得・住民税:1041万円
累進課税制度により、年収があがっていくほどに所得税率は上がっていき、所得税+住民税の負担は大きくなっていくこと、実際の税額はどの程度なのか、というのが少しイメージいただけたかと思います。
※社会保険料控除は年収の約14%程度の水準となるため、概算で試算
※なお、自営業者かどうか、配偶者控除や生命保険料控除などその他の控除の有無などによっても課税所得は変わってきますので、参考程度としていただければと思います。
↓ご参考
「給与収入」「給与所得」「所得控除」「税額控除」の違いを説明できるようになる - 《FP1級》ぽこごまの保険・不動産・お金のこと
2.不動産投資による節税対策
不動産投資は収益性の高さを求めることが原則になりますが、会計上赤字を出すことによって、サラリーマンの場合などは得をするケースがあります。
↓詳しくはこちらをご参考
減価償却による節税メリットについて【サラリーマンでもできる】 - 《FP1級》ぽこごまの保険・不動産・お金のこと
◆ここでは、年収1000万円(課税所得620万円)のサラリーマンが、以下のような物件を取得し、5年経過後に売却した場合の節税効果等について検討したいと思います。
構造 :木造
築年数 :22年
物件価格:2540万円
価格内訳:土地1500万円、建物:1040万円
賃料収入:150万円
NOI :60万円(費用:90万円)
経費 :▲350万円(減価償却260万円+費用90万円)
収支 :▲200万円
この場合、1~4年目はキャッシュベースの収支で60万円/年となりつつも、不動産事業としての収支は▲200万円となっております。
不動産事業は“損益通算”することができるため、給与と合算することで課税所得は420万円程度となります。
つまり、所得税・住民税として概算で約62万円が4年間還付(約250万円)されるのです。
なお、5年目は建物の減価償却が終わり、不動産収支はプラスとなりますので、税の還付はありません。
5年経過後、本物件の簿価は以下のとおりです。
物件の簿価=2540万円ー1040万円=1500万円
ちなみに年収が3,200万円の方の場合は、課税されている税金も大きいものとなりますので、節税効果として超概算ですが、約340万円が見込めます。
また、以前に不動産会社と面談した際に聞いた話では、不動産会社との食事代や物件視察のための新幹線代として、これまでも同様にかかっていたような費用を不動産事業のマイナスとして見込むことができる場合があるとのことですので、その場合はさらに節税効果が期待できそうです。
3.売却時の課税
仮に5年経過後に、取得価額と同額である2540万円で売却できたとするとどうなるのでしょうか。
その場合は減価償却後の簿価と売却価額の差額である1040万円に対して約20%(長期譲渡所得)の税金がかかりますので、約210万円の税金がかかることとなります。
よって、売却時にかかる一時費用(仲介手数料等)を加味すると、節税効果で得たキャッシュ以上のキャッシュアウトが発生する可能性がありますが、売却しない限りは売却益として実現しませんので、一定の課税の繰り延べ効果があると言えそうです。
一方で、所得税率が大きい富裕層などは、節税で還付される金額も大きくなりますので、売却時の課税を上回る節税効果が得られる可能性もありそうです。
4.まとめ
いかがでしたでしょうか。
年収によって所得税率が高くなっている累進課税制度と不動産の長期譲渡所得を組み合わせた節税効果について、具体的な仮定をもとにイメージしてみました。
あくまで、不動産投資については、収益性等を加味して検討を進めていくのが第一だとは思いますが、高所得者などは課税の繰り延べ効果や節税効果を目的とした投資も検討可能であると思います。
不動産価格が高騰しており収益性のみでは投資実行が難しい場合など、違った角度からの検討材料として、少しでも参考にしていただければ嬉しく思います。
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